リスク許容度を理解する – エクスポージャー管理の重要な要素
リスクはビジネスにつきものです。 組織がリスクをどのように理解し、管理するかがすべてを左右するのです。
運用上の課題から市場の変動、規制の変更、技術の進歩まで、会社は、成長を生み出す可能性も損失につながる可能性もあるさまざまな不確実性に直面しています。
リスクを効果的に管理するには、企業は目標達成のためにどの程度のリスクを受け入れるかを判断できるような枠組みを確立しなければなりません。 そこで「リスク許容度」という概念が役に立つのです。
ただし、リスク許容度を定義するには、会社が直面するすべてのリスクを把握し、理解する必要があります。 エクスポージャー管理戦略のための基盤を築くセキュリティチームにとっても、その組織のリスク許容度を定義することは重要なステップとなります。
リスク許容度とは?
リスク許容度とは、組織がその目的を遂行するために受け入れるリスクのレベルのことです。 これを定義することで、組織がどのようなリスクをどの程度取るかについて、境界が設定されます。 A リスク許容度が高いということは、より大きな利益を得るために大きなリスクを受け入れる用意があることを意味します。一方、リスク許容度が低いということは、その組織がリスクを可能な限り減らすことを好むことを意味します。
最先端の研究開発に投資を行おうとするテクノロジー系スタートアップ企業について考えてみましょう。 不確実でも、潜在的な利益にそれだけの価値があると考えれば、斬新で画期的なイノベーションを実現するために高いリスク許容度を採用するかもしれません。 逆に、すでに世に認められた大企業では、リスク許容度が低いかもしれません。市場での地位や評判を大きく損なう可能性のあるプロジェクトを避け、着実な成長に重点を置く可能性があります。
リスク許容度は定量的かつ定性的
リスク許容度は決して静的なものではありません。業界、会社の規模と健全性、戦略目標、規制要件、市場全体の環境などの要因に基づいて調整されるべき動的な尺度です。
リスク許容度は数字だけで測る問題でもありません。リスク選好度は定量的要因と定性的要因の両方を組み合わせたものなのです。
許容できる損失の額、負債比率、目指す投資収益率(ROI)などの測定可能な要素を企業が有する場合もあれば、 企業の評判に影響が及ぶ可能性、倫理的な配慮、その決定が企業理念とどの程度一致しているかなど、主観的な側面も検討しなければならないかもしれません。
リスク許容度を定義することは、なぜ重要なのでしょうか?
組織が成功を望むなら、計算したうえでリスクを負うべきです。 ただし、リスク許容度を明確に理解していなければ、意思決定が一貫性を欠いたり、後手に回ったり過度に慎重になったりして、 機会損失やビジネスの損失につながる可能性があります。 リスク許容度を定義することがなぜ重要なのか、その理由を挙げましょう。
戦略とリスク管理を整合化するため
リスク許容度を明確に定義することで、リスク管理の実践を事業全体の目標に一致させた戦略的枠組みが実現します。 企業がどの程度のリスクを受け入れる意思があるかを把握していれば、自社のリスク許容度に見合った機会を追求し、過度のリスクを負う可能性を回避することができます。
意思決定を改善するため
リスク許容度を定義することで、責任者や管理者が許容可能なリスクを明確に理解し、情報に基づいた意思決定を行うことができるようになります。 また、リスクを取る行動/リスクを回避する行動の両方に対して期待されることを組織全体で設定し、管理者がさまざまなシナリオを使ってリスクと報酬のトレードオフを評価することができます。
ステークホルダーの信頼を築くため
リスク許容度が明確に定義されていれば、組織がリスク管理を重視していることを示すことができ、投資家、規制当局、従業員、その他の利害関係者に安心感を与えます。 また、リスクと報酬のバランスをとるための系統的かつ信頼できるアプローチを示すことで、ステークホルダーの信頼がさらに強化されます。
一貫性を促進するため
組織内の全員が、どの程度のリスクが許容されるのかについて「情報を得る」ことで、許容される行動を把握して一貫した意思決定が可能になります。 つまり、目的がくい違ったり、反対方向に進んだりする可能性が低くなります。 たとえば、法務部門とマーケティングチームが許容可能なリスクについて同じ考えを共有していなければ、法務部門はマーケティングチームの素晴らしいアイデアにブレーキをかけてしまう可能性があります。
効果的なリスク監視を支援するため
会社がリスク許容度を定義すると、財務から運用までを含めた企業全体でリスクレベルを監視するシステムを構築できます。 こうすれば、潜在的な問題を早期に発見し、活動が安全と見なされる範囲内、あるいは少なくとも許容範囲内にとどまるようにすることができます。 重要リスク指標(KRI)を設定して監視すると、誰かがその境界に接近している場合に早期に警告を発することができます。
会社はどのようにリスク許容度を定義するのでしょうか?
リスク許容度の定義にあたって、組織は通常、「リスク選好度ステートメント(RAS)」を作成します。 リスク許容度ステートメント(RAS)の導入部では、会社の戦略目標およびそれに関連するリスクが説明されます。
業界をリードするようなソフトウェアプロバイダーを目指す会社について考えてみましょう。 ここでは、目標を達成するために不可欠な戦略目標のリストとともに、それに関連するリスクもリストアップしなければなりません。 たとえば、Ivanti の事業は、クラウドベースの IT サービスとセキュリティ管理ソリューションを提供することであり、 リスク許容度ステートメントでは、この事業分野に関わるすべてのリスクを列挙し、それらをどのように管理するかを会社として説明しなければなりません。
あるソフトウェアプロバイダーのリスク許容度ステートメントの一部を例示しましょう。
一般的なリスク許容度
[XYZ 社]は、リスクに対してバランスの取れたアプローチを採用し、すべてのリスクが等しいわけではなく、戦略目標を達成するためにはある程度のリスクが必要であることを認識しています。
イノベーション・リスク 私たちは、競争環境において製品を差別化する先進技術や革新的なソリューションへの投資に対して、高いリスク許容度を備えています。 そのためには、研究&開発や製品開発においてある程度の不確実性を受け入れる必要があることを、私たちは理解しています。 運用リスク 私たちは、低~中程度のリスク選好度を維持しています。 オペレーショナル・エクセレンスを追求する一方で、私たちは提供基準を損なうことなく効率性とサービス品質を向上させる取り組みを優先しています。 セキュリティリスク セキュリティ上の脅威や侵害に対する私たちのリスク許容度は極めて低くなっています。 ネットワーク・セキュリティとデータ保護に対する当社のコミットメントは最重要であり、当社のシステムとお客様のデータを保護するために多額の投資を行っています。 コンプライアンス・リスク 私たちは、法的・規制的要件に対するコンプライアンス違反に対するリスク許容度を低くしています。 すべての業務分野において、関連する法律、基準、ベストプラクティスを確実に遵守することが重要です。
リスク許容度ステートメント(RAS)では、ビジネスを行う上で発生する日常的なリスクではなく、組織に最も大きな影響を与えるリスクを定義します。 そこで、複数のリスクシナリオを検討しなければなりません。たとえば、特定の戦略にはサプライチェーンリスクが伴う場合があります。ベンダーに縛られることによる影響や、サプライヤーが顧客データを適切に処理しなかった場合の規制違反の危険性などがこれに当たります。
また、企業が引き受けることができる財務リスクの量も定義しなければなりません。 新しい製品やサービスを提供することが目的である場合、市場で失敗する可能性は常に存在します。
リスク許容度の構成要素
リスク許容度を定義する際に考慮すべき重要な要素を挙げましょう。
リスクキャパシティ(許容可能な最大リスク量)
これは、組織が負うことができるリスクの最大量を指し、 通常は財務上のリソース、運営能力、規制上の制約によって決まります。 リスクキャパシティはリスク選好度とは異なります。一定レベルのリスクを負うだけの能力を持つ組織でも、リスク選好度に基づいてリスクを負わないことを選択する可能性があるのです。
リスク許容度
リスクキャパシティが、組織が耐えられるリスクの量を示すものであるのに対し、リスク許容度は目標に対して許容可能な偏差のことであり、 分野ごとに異なる許容度を設定することもできます。 たとえば、新製品に対するリスクは負っても、顧客データの管理に関してはリスクを回避する組織もあるかもしれません。
リスク閾値
リスク監視と重要リスク指標(KRI)についてz前述しましたが、これらは会社がリスク閾値、つまり「越えてはならない一線」を超えないようにするために使用されます。 リスク閾値を超えると、計画の変更、安全対策の強化、あるいは業務を完全に停止することが必要になる場合があります。
関連:Ivanti 調査レポート:認識を一致させる:経営幹部陣におけるサイバーリスク管理
エクスポージャー管理にリスク許容度が重要である理由は?
かつて、デジタルリスクを軽減することは現在よりもはるかに簡単でした。 時は経過し、今や多くの大規模組織では攻撃対象領域が著しく拡大していています。 従業員が使用するデバイス/アプリケーション数とその使用場所が増えて職場環境が変化し、デジタル脅威の対象も拡大しています。
Ivantiの調査では、IT専門家の半数以上が、今後12 か月の間に損害となるセキュリティインシデントを阻止できるようには思えないと回答していますが、攻撃対象領域の拡大もその一因となっています。 また、3人に1人以上が、1年前に比べると脅威を検出してインシデントに対応する備えが不十分であると回答しています。
従来型の脆弱性管理では、長期にわたってソフトウェアやハードウェアの脆弱性やその他の共通脆弱性識別子(CVE)を事後的に修復することに重点を置いてきました。ただし、通常は断続的にスキャンを適用するのみにとどまります。 現在のサイバー脅威のシナリオにおいては、新たなアプローチが求められています。
最新のエクスポージャー管理では、デジタル攻撃対象領域全体にわたってリスクと脆弱性を継続的かつ積極的に発見して修復することに重点を置いています。 リスクと脆弱性は、公開された IT 資産、セキュリティ保護がなされていないエンドポイントとアプリケーション、クラウドベースのリソース、その他あらゆるベクトルから発生するのです。 エクスポージャー管理とリスク選好度がこれほど密接に関係する理由は?
- 許容可能なリスクレベルに基づいてエクスポージャーを評価する:エクスポージャー管理には、さまざまなエクスポージャーに関連するリスクレベルを定量化することが含まれます。 許容可能なリスクを定義することで、組織はさまざまなリスクが及ぼしうる影響をリスク選好度になぞらえることができます。
- リスクに基づいてリソースを配備する:組織は、自社の戦略にとって最大の脅威となるエクスポージャーに優先順位を付ける必要があります。こうした評価は、リスク選好度を明確に理解してはじめて行えるようになります。 優先順位を付けることによって、最も重要な問題を緩和するためにリソースを集中できるようになります。これには多くの場合、高度なリスクベースの脆弱性管理(RBVM)ツールが用いられます。
- リスク選好度を調整する:ビジネス環境の変化や新たなリスクの発生で、リスク選好度を調整しなければならない場合もあります。 こうした調整を行うにあたって、組織がエクスポージャー管理業務の中から得られるデータと洞察は、情報に基づいた意思決定を行うのに役立ちます。
- コンプライアンスの確保:多くの業界ではリスク管理に関連する規制要件があり、それが組織のリスク選好度に影響を及ぼします。 エクスポージャー管理には、コンプライアンスへの不適合を引き起こす可能性のあるリスクを特定し、対処することが含まれます。
関連:Ivanti 調査レポート:攻撃対象領域の管理
エクスポージャー管理の観点からセキュリティリスクを見る
エクスポージャー管理と他のセキュリティ慣行との顕著な違いは、エクスポージャー管理では、組織に最も大きなリスクをもたらすリスクの修復を優先するだけでなく、どのリスクが組織のリスク許容度の範囲内に収まるかを積極的に定義することが含まれるという点です。 たとえば、ブラックフライデーに自社サイトを稼働させ続けるために、セキュリティリスクの増大を受け入れる電子商取引企業もあるかもしれません。その企業にとっては、価値あるトレードオフなのです。
組織は、潜在的なすべてのリスクを即時に修復すべき危機と見なすのではなく、ビジネスニーズに基づいて優先順位を付けなければなりません。 この枠組みでは、大部分のリスクは悪いものではありません。重要なのは、リスクにどのように対応・制御・軽減して許容可能なレベルにまで引き下げるかということです。